計画研究

本領域では、以下の4つの研究課題を柱に、「ミルフィーユ構造の材料科学」の創成を目指す。

A01:多様なミルフィーユ構造を有する新規Mg合金の創製

班長 : 河村 能人(熊本大学・教授)

ミルフィーユ条件を満たす新規Mg合金の創製と効果的なキンク導入技術の開発を行うことで、ミルフィーユ構造とキンク形成の制御を通じた新強化原理に基づく新規ミルフィーユ材料の開発指針を確立する。

A01-1:多様なMg系ミルフィーユ構造の構造制御と物質創製(実験系)

研究代表者:
山崎 倫昭(熊本大学・准教授)
研究分担者:
河村 能人(熊本大学・教授)
奥田 浩司(京都大学・准教授)
研究協力者:
小川 由希子(物質・材料研究機構・研究員)
竹田 修(東北大学・准教授)

経験的ミルフィーユ条件を満たし、キンク強化を発現する新規Mg系ミルフィーユ構造物質を創製する。

  1. LPSO型Mg合金をモデル合金として溶質濃化層(硬質層)の層間距離制御を行い、キンク形成が発現する特性長を明らかにすることで経験的ミルフィーユ条件の精密化を図るとともに、ミルフィーユ構造の形成・変形支配因子の抽出を行うことでミルフィーユ材料科学の「深化」に資する。
  2. 新規Mg 合金創製においては、熱力学・状態図計算により最適成分設計を行った後、加工熱処理制御によるひずみ誘起析出や、相変態と析出を組合せた階層的高次組織制御による新たなミルフィーユ構造物質創製を試みる。また、急速凝固や溶融塩電解といった新規非平衡プロセスを駆使して、Mg合金における多様なミルフィーユ物質群の拡大を目指すことで本領域の「展開」に資する。
  3. 大型量子線その場回折/散乱実験による最適プロセス経路の選択原理の実験的探索を行うことで、制御技術の高効率化を図るとともに、Mg系ミルフィーユ物質創製の指導原理を確立する。

A01-2:多様なMg系ミルフィーユ構造のキンク制御と材料創製(融合系)

研究代表者:
染川 英俊(物質・材料研究機構・グループリーダー)
研究分担者:
戸高 義一(豊橋技術科学大学・教授)
研究協力者:
湯浅 元仁(同志社大学・助教)
安藤 大輔(東北大学・助教)

経験的ミルフィーユ条件を満足した多様なMg系ミルフィーユ物質群を対象に、押出・鍛造・圧延の汎用塑性加工法、溝ロール圧延や多段鍛造法等の特殊塑性加工法、ねじりせん断 (HPT) を代表とする巨大ひずみ加工法のマルチな高次塑性加工法を駆使し、キンク形態とキンク構造を制御したMg系バルク材料創製を実施する。加工条件因子である温度や速度、ひずみ付与や蓄積量を調整し、キンクの数密度、サイズ、角度、応力分布に挙げられるキンク形態、キンク構造であるキンク/母相の安定性、ひずみ分布、局所構造をナノレベルからミクロ・サブミクロンレベルに至るまで階層的に組織制御する。
また、高次塑性加工時の加工因子や導入ひずみを普遍化するために、有限要素解析等の計算科学ツールを援用する。
各種Mg系キンク制御材の内部微細組織は、透過型電子顕微鏡、後方散乱回折法をはじめとする観察法によって詳細に観察し、キンク形態と構造の定量化を図る。
これらを相互理解、補完することによって、効果的なキンク導入プロセス技術を確立する。同時に、各種創製バルク材の巨視的力学特性応答の実験検証によって、ミルフィーユ材の特性高度化に最適なキンク形態および構造を明確にする。

A02:キンク形成&キンク強化メカニズム解明による領域の深化・展開

班長 : 相澤 一也(日本原子力研究開発機構・研究主席)

マルチスケールでの力学特性評価、構造・組織解析、モデリングを融合し、ミルフィーユ構造のキンク形成メカニズム、強化メカニズムの実験的解明を行い、多様な新規Mg系、新規金属・高分子系ミルフィーユ材料創製 (A01,A04)・理論構築 (A03) に貢献する。

A02-1:力学解析によるキンク形成・強化のメカニズム解明(実験系)

研究代表者:
萩原 幸司(大阪大学・准教授)
研究分担者:
岸田 恭輔(京都大学・准教授)
榎 学(東京大学・教授)
研究協力者:
鈴木 真由美(富山県立大学・教授)
白岩 隆行(東京大学・助教)

ミルフィーユ構造が示す特異な力学特性の支配因子として注目される、キンクの形成機構(発現条件)、これによる強化機構は未だ不明なままである。本研究では、経験則的観点から提案されたキンク形成・強化のための「ミルフィーユ条件」に着目し、この妥当性を実験的観点から検証する。
硬質層と軟質層のサイズ比や結晶構造、界面を通じての変形の連続性を支配する異相界面構造、層間結晶方位関係の有無といった、ミルフィーユ構造中にて微視的組織因子の異なる多様な材料群に着目することで、活動変形モード、変形様式の支配因子、支配機構を明らかにする。
これを踏まえつつさらに、キンク形成・強化機構を、マイクロピラー試験、超高速度ビデオカメラによるその場観察、アコースティックエミッション (AE) その場測定、方位制御単結晶試験をはじめとする、最新の各種マルチスケール力学解析手法を駆使することで、その温度、ひずみ速度、結晶方位依存性といった各種観点に着目し、明らかにする。
これらを通じ、ミルフィーユ構造が誘発する特異なキンク形成・強化の素過程、力学特性支配因子を解明することで、高機能ミルフィーユ材料創成のための指針を与える。

A02-2:精密構造解析によるキンク形成・強化のメカニズム解明(実験系)

研究代表者:
阿部 英司(東京大学・教授)
研究分担者:
波多 聰(九州大学・教授)
Stefanus Harjo(日本原子力研究開発機構・研究主幹)
相澤 一也(日本原子力研究開発機構・研究主席)
上椙 真之(高輝度光科学研究センター・研究員
研究協力者:
木村 滋(高輝度光科学研究センター・主席研究員)
津田 健治(東北大学・教授)
江草 大佑(東京大学・助教)

多様な新規Mg系および新規金属系物質において、ミルフィーユ条件を満たす層状構造では硬質層・軟質層間での剥離を伴わない空間充填されたキンク領域が形成される。このキンク構造の多元的マルチスケール精密解析から、これらキンクはどのようにして形成されたのか、またキンクが如何にして材料強化へと寄与しているのか、これら2点の構造物性解明を目指す。

電子線によるミクロ解析
キンク領域に、格子回転により形成される界面の近傍について、硬質層・軟質層の格子連続性、添加元素の分布・結合状態、格子ひずみ、転位の3次元組織を原子レベル~結晶粒スケール (10-10~10-6 m) に渡って系統的に解析する。

量子線によるマクロ解析
中性子・放射光大型施設の最先端計測法を駆使して、ミルフィーユ構造の硬質層・軟質層間相互作用・応力分配、キンクひずみ解析、キンク形成その場観察、キンク3次元形態を、ミクロスケールからバルクスケール (10-6~10-2 m) までを対象として系統的に解析する。

A02-3:モデリングによるキンク形成・強化のメカニズム解明(計算系)

研究代表者:
君塚 肇(大阪大学・准教授)
研究分担者:
板倉 充洋(日本原子力研究開発機構・研究主幹)
只野 裕一(佐賀大学・准教授)
研究協力者:
眞山 剛(熊本大学・准教授)
山口 正剛(日本原子力研究開発機構・研究主幹)

電子状態計算から空間・時間粗視化原子シミュレーション、幾何学的に必要な転位や回位の密度を導入した高次の結晶塑性論など、スケールを横断する新しい計算力学手法を取り入れて、多様なミルフィーユ構造の (1) ミクロ~メゾスケールにおけるキンク形成の微視的支配因子および (2) メゾ~マクロスケールにおけるキンク形成の動的様態、を解明する。
(1) に関しては、キンク界面を構成する転位・回位の生成と活動、およびキンク形成の素過程となる局所格子回転を伴う原子シャッフリングのエネルギー論を確立し、すべり系・双晶系の制限下での特異な変形モードの描像を明らかにする。
(2) に関しては、キンク形成における寸法効果や回位のパターニングの他、これらが力学性能に与える影聾を明らかにすることで、他の変形機構との協調・競合によって強化をもたらす物理的シナリオを明確化する。
最終的には、新規金属系に通ずるメカニズムの拡張を経て、ミルフィーユ構造の硬質・軟質層設計およびキンク等の変形モード制御に対する指針を確立する。

A03:ミルフィーユ構造のキンク理論構築

班長・研究代表者 : 藤居 俊之(東京工業大学・教授)

ミルフィーユ構造の変形時に形成されるキンクを数学、物理学、材料力学、および材料科学等の多角的視野から捉え、その形成機構を解明し、キンク形成によって発現する特異な強化機構を理論として確立させる。

A03-1:異分野融合によるキンク形成・強化の理論構築(融合系)

研究代表者:
藤居 俊之(東京工業大学・教授)
研究分担者:
中島 英治(九州大学・教授)
Svadlenka Karel(京都大学・准教授)
稲邑 朋也(東京工業大学・教授)
垂水 竜一(大阪大学・教授)
研究協力者:
長谷部 忠司(神戸大学・准教授)
光原 昌寿(九州大学・准教授)

ミルフィーユ構造の変形時のキンク形成を転位の運動によって生じる非線形特異現象として捉え、数理科学や材料科学に基づいて、複眼的、多角的視野から、(1) 数学によるキンク形成機構のモデリング、(2) 結晶物理学によるキンク界面適合性の幾何学的条件の選定、(3) 転位論を包含する回位論および材料組織学によるキンク形成の可視化、を行い、数値シミュレーションを通した数理モデルの検証を経て、キンク形成理論を導く。
また、(4) 塑性力学における場の理論によるキンク形成のモデル化、(5) キンクと格子欠陥との弾性相互作用を記述する非線形偏微分方程式の導出、および (6) 材料物理学的見地からのミルフィーユ構造のキンク強化機構のモデル構築、を行い、これらすべての知見を精緻化・統合し、種々の実験結果を矛盾なく説明するミルフィーユ構造のキンク強化理論を構築する。 さらに、それらキンク形成・強化理論から、金属系、セラミックス系、高分子系の三大材料を対象として、ミルフィーユ材料創製に活かせる材料設計指針を導く。

A04:構造制御&キンク制御による領域の展開

班長 : 斉藤 拓(東京農工大学・教授)

ミルフィーユ条件を満たす新規金属・高分子系物質を創製して、ミルフィーユ構造とキンク形成の制御を通じた新強化原理に基づく新規ミルフィーユ材料の開発指針を確立する。

A04-1:新規金属・高分子系ミルフィーユ構造の構造制御と物質創製(融合系)

研究代表者:
三浦 誠司(北海道大学・教授)
研究分担者:
江村 聡(物質・材料研究機構・主幹研究員)
斎藤 拓(東京農工大学・教授)
藪 浩(東北大学・准教授)
研究協力者:
徳永 辰也(九州工業大学・准教授)
池田 賢一(北海道大学・准教授)
早川 晃鏡(東京工業大学・教授)

Mg系において得られた経験的ミルフィーユ条件を満たす構造を形成可能な物質群を、広く新規金属系、さらには高分子系において探索・創製する。
すなわち、Mg系ミルフィーユ構造物質であるLPSO構造相中の硬質層・軟質層の組み合わせを範にして、平板積層を基本構造とする物質群を探索・設計・実現する。
新規金属系では、Ti合金やAl合金、Co合金などにおける多元系状態図の実験的・計算科学的探索から、転位運動に有利な最密面が硬質層/軟質層界面となり得る層状構造の候補を抽出し、種々の組織制御を試みる。
さらに、元素偏析や加工熱処理を利用したヘテロ構造制御に基づいた金属系ミルフィーユ構造物質群への展開も模索する。高分子系では、ブタジエンとスチレンから成る層状のミクロ相分離構造を形成するブロック共重合体を合成する。
また、層状構造を有するポリエチレン結晶、二相構造を形成するポリプロピレン/ポリブタジエン系ポリマーブレンド、ポリプロピレン一銅コンポジットなどに対して射出成形・熱延伸等の配向制御することで様々な層間サイズの高分子系ミルフィーユ構造物質を創製する。
これら新規ミルフィーユ構造制御のための指導原理確立を目指し、一般化ミルフィーユ条件確立へ向けた実験的検証を行う。

A04-2:新規金属・高分子系ミルフィーユ構造のキンク制御と材料創製(実験系)

研究代表者:
伊藤 浩志(山形大学・教授)
研究分担者:
寺田 大将(千葉工業大学・准教授)
兼子 佳久(大阪市立大学・教授)
研究協力者:
瀧 健太郎(金沢大学・准教授)

A04-1から提供される新規金属・高分子系、さらには高分子一金属コンポジットのミルフィーユ構造に対して、ひずみ制御可能な特殊塑性加工法や精密加工法によって、層状構造の制御とキンク導入した新規金属・高分子系ミルフィーユ材料を創製する。
新規金属系に対しては圧延などの一般的な塑性加工法に加え、層状構造微細化や高密度キンク導入が期待できる繰返し接合重ね圧延 (ARB) などの塑性加工法を試みる。
また、高分子材料に対してはナノインプリントや冷延伸・圧延加工による精密加工法、超臨界流体下での延伸、UV照射による延伸中の反応成形などを試みる。
これらの新規ミルフィーユ材料に対し組織観察と構造解析による定量評価により、加工プロセス条件とミルフィーユ構造(層状構造、キンク形態およびキンク構造)との関係を明らかにする。ここでは、新規成形加工法の提案と、加工挙動を明らかにするため各種プロセス挙動のモニタリングを通じて、プロセスデータベースも併せて構築し、新規金属・高分子系ミルフィーユ物質群におけるキンク導入・制御技術の確立を目指す。
また、加工制御された種々のミルフィーユ材料の特性を調べ、プロセス・構造・物性の相関を整理し、新規金属・高分子系ミルフィーユ材料群における特性向上のためのプロセス最適化、さらには新たな材料創製への展開を図る。