最新研究(肩書は掲載時)
塑性加工法に関係なくLPSO単相のMg-9Y-6Zn(at.%)合金にキンク導入できることを確認した。また、キンク導入した各塑性加工材の硬さは、相当塑性ひずみの増大と共に一様に大きくなる。一方、硬さと相当塑性ひずみの関係は加工法に依存し、例えば、相当塑性ひずみが2の場合、押出材、溝ロール材、HPT材の順に硬度特性が上昇する。これは、塑性加工時に複合化した応力・ひずみ成分を導入することがキンク導入および強化に効果的であることを示唆している。押出加工後、ねじり加工を付与することにより、圧縮降伏強度が1.5倍以上も向上することは、よい実証例である。

さまざまな温度・速度での高温単軸圧縮によりキンクを導入したLPSO単相合金に対し、そのキンク形成とキンク強化の関係をビッカース硬度試験を用いて評価した。加工によりキンクが導入された試験片は、加工時に変化するさまざまな組織因子に影響を受け、キンクによる強化量のみ抽出することが難しい。そこで、レーザー顕微鏡を用いた観察により、キンクが観察された領域と観察されなかった領域を10gfでのビッカース硬度試験で打ち分け、キンクによる硬度増分を算出することでキンク以外の組織因子の影響を低減することを試みた。その結果、キンクによる硬度増分は、加工条件に依らず、圧痕を含む局所領域を通過するキンク界面の数(図(a),(b))とよい相関を示した(図(c))。すなわち、µm領域での観察結果に基づくが、キンク強化はキンク間隔と密接な関係にあることを示唆している。

Mg合金において近年、キンク帯を利用した力学特性制御が実現され注目を集めている。本研究では同様の制御がAl合金でも可能となることを初めて明らかにした。Al/Al2Cu共晶合金に一方向性凝固処理を施すことで、ラメラ組織が結晶成長方向に整列したミルフィーユ構造を作りこむことができ、これによりキンク帯の形成誘導が実現された。しかしこの材料においては、完全なラメラ構造のみからなる場合は低強度を示し、むしろ初晶として軟質相であるAlを含む合金の方が高強度を示すという不思議な特性が見出された。この特異な挙動の起源はキンク帯の形態変化にあり、ラメラ組織のみからなる合金中では座屈を引き起こす巨大なキンク帯が導入されるのに対し、初晶を導入することでキンク帯のサイズが大きく低減し、この結果として延性付与と同時に高強度化が達成されることが明らかとなった。すなわち本結果はキンク帯の形態制御によりキンク帯形成を「破壊モード」から「変形モード」へと変化させることが優れた力学特性を引き出すために重要であり、この実現がミルフィーユ構造制御により達成され得ることを示している。

教師ありおよび教師なし機械学習を利用したアコースティックエミッション(AE)法を適用することにより、ミルフィーユ構造を持つMg‒Y‒Zn合金およびTi‒12Mo合金の変形挙動を調査した。教師あり学習プロセスを用いて、純粋なマグネシウムとLPSO構造の一方向凝固Mg85Zn6Y9合金の圧縮試験において発生したAE信号を学習データとして使用することにより、α-Mg相とLPSO相からAE源を同定するための分類モデルを構築した。一方、教師なし学習プロセスを用いて、Ti‒12Mo合金の圧縮試験におけるAE信号の周波数スペクトル特性から2つのクラスターに分割し、さらにデジタル画像相関(DIC)を実行してこれらのクラスターと変形挙動の関係を調査した。ミルフィーユ構造を持つ材料の変形挙動の解析において、教師ありおよび教師なし機械学習を使用したAE手法が有効であることがわかった。

面心立方晶金属単結晶の塑性変形で生じる変形帯には、すべり面に平行なものと垂直なものの二種類が存在し、後者がキンク帯である。キンク帯は、変形の不均一であるすべり面の”よじれ”によって形成されると理解されてきた。しかし、複数のすべり系が同時に活動する場合の形成方位は、未だ明らかにされていなかった。本研究では、銅単結晶を共面二重すべり方位で室温圧縮変形させ、走査電子顕微鏡による二面観察からキンク帯形成方位を特定し、すべりの幾何学から説明した。塑性変形開始後、ひずみ1%未満で二次硬化に遷移し、主すべり面に垂直なキンク帯が形成された。その形成面は、主すべり系および共面すべり系転位のバーガースベクトルの和によって求まる方向を法線とする(211)面に平行となることがわかった。本結果は、各すべり系の活動度に応じてキンク帯形成面は変化することを示唆している。

FTMP(マルチスケール塑性場の理論)に基づく不適合度テンソルに伴う新たな自由度を結晶塑性理論による有限要素法シミュレーションに導入することで、従来法では再現ができなかった変形双晶やRank-1接続を満足するキンク形成が簡便かつ自然に再現できる。本報告では、キンク形成・強化機構解明に向けた、研究初期に行った予備的検討において、”キンク的”形態から”キンク”形態への改善に伴い、エネルギ解放特性がよりAE計測に基づく実験的傾向へと近づく様子を議論している。変形双晶を援用したモデルでは、スケールフリー性は再現されるものの、大小キンクが交互に形成されることを示す特異なリターン・マップは得られず、モデル中で一様にせん断量に依存して変化する簡易Rank-1接続モデルを採用した場合では、後者についても実験における特徴を再現し得ることを明らかにしている。

配向させた高密度ポリエチレン(HDPE)を熱延伸すると、熱延伸倍率λの増加に伴い降伏強度が増加してλ>300%で降伏点が現れなくなり、λ=400%で破断強度が170MPaとなり配向HDPEの約5倍に増加することが見出された。小角X線散乱測定の結果から、配向HDPEでは長い結晶ラメラ(硬質層)と非晶層(軟質層)が積層されたミルフィーユ構造(MFS)が形成されており、それを熱延伸すると短い結晶ラメラから成るMFSへと変化することがわかった。また、配向HDPEを室温で伸長すると降伏時にラメラが破壊されてボイドが形成されるのに対して、熱延伸HDPEでは伸長してもMFSが保持されることがわかった。高λの熱延伸HDPEでは硬質層が軟質層中の伸ばされたタイ分子により結ばれて規則正しく配列したMFSが形成され、伸長しても結晶中の分子鎖間での滑りが生じず、硬質層が破壊されないためにラメラの破壊による降伏が抑制され、高強度化したと考えられる。

多結晶Ti3SiC2-MAX相の高温圧縮変形におけるキンク帯の形成機構を調査した後、ナノインデンテーション法を用いてキンク境界近傍の局所領域の力学特性の評価を実施した。キンク境界(KB)①および②近傍の測定点#0-#9において試験を実施した結果、ナノ硬さHnはKB近傍で高い値を示し、KBからの距離Lが大きくなるにつれ直線的に低下した。硬さ試験後、圧痕からはすべり変形によると思われるトレース線がTi3SiC2相の底面に沿って形成されることが確認される。KB近傍の高Hn値の圧痕から形成されるトレース線はKBで止められ、短くなる傾向が確認できた。このことは、KBが圧痕下に形成される転位の運動の障害となっているためと考えられ、MAX相においてもKBが材料強化への寄与を示唆している。

Mg/LPSO二相Mg-Zn-Y合金押出材中に形成される<0001>軸回転型キンクの幾何学的特徴をSEM-EBSD測定およびTEM観察により調査するとともに、眞山准教授(熊本大学)による結晶塑性FEM解析結果をもとにその形成機構を考察した。これまで、底面<a>辷りに起因する <uvt0> 軸回転型キンクの研究が盛んに進められてきたが、本報ではLPSO相中において、柱面 <a>辷りが活動する高温で加工することにより、<0001>軸回転型キンクが形成されることを突き止めた。底面と異なり柱面はc軸を中心に60°回転毎に等価な面が存在するが、<0001>軸回転型キンクはシュミット因子の最も高い単一の柱面<a>辷りのみにて形成し得ることが結晶塑性FEMにより推測された。辷り系の異なるキンク変形の存在は、異種キンク同士の相互作用といった新たな現象を想像させる。

一方向凝固材および鋳造材に対し、溝ロール圧延法と押出法によってLPSO相内にキンクを導入し、巨視的なキンク強化に及ぼす加工法(ひずみ導入法)と加工温度の影響について調査した。局所的なマイクロビッカース硬度は、キンクの有無およびキンク間隔と密接な関係があり、展伸加工法や温度に関係なく、キンク間隔の緻密化にともない高い値を示すことを確認した。他方、キンク界面近傍の残留ひずみに起因し、加工温度が低温であるほど、高硬度化に対するキンク間隔の寄与が大きくなることを確認した。本結果は、(低温で)緻密なキンクを導入することが高強度・高硬度バルク材創製に有効であることを示唆している。また、キンク組織を活用し、巨視的なイントリンシックキンク強化を表現した一例といえる。

(b)溝ロール材-加工温度100℃, (c)同-加工温度475℃ 図内白矢印はキンク界面を示す)
LPSO相を含むMg‒Zn‒Y三元合金が優れた機械的特性を示すことがこれまでに報告されている。これはLPSO相が強化相として有効に機能するため、とこれまで考えられてきた。しかし本研究にて、二相合金の母相と同じ組成のMg99.2Zn0.2Y0.6単結晶の力学特性を評価したところ、その降伏応力は LPSO単相合金の降伏応力とほぼ同等の値を示すことが明らかとなった。この異常な強度上昇は、「LPSO ナノプレート」と呼ぶY、Zn元素が偏析した面欠陥の存在に由来する。Mg99.2Zn0.2Y0.6単結晶では、変形中のLPSO 相と同様にキンクバンド形成が生じ、結果として延性を伴う高強度化が実現した。この結果はL、PSOナノプレート組織の精密制御によっては、ZnおよびYの含有量をはるかに減少させたうえで、機械的特性が現在のMg/LPSO 二相合金と同等、さらにはより優れた新しい超高強度 Mg合金が開発できる可能性を示唆している。

LPSO型Mg 合金における平衡状態でのキンク界面構造を明らかとするために、高温押出加工によりキンク界面を導入したMg97Zn1Y2合金に熱処理を施した試料を対象に透過型電子顕微鏡・走査透過型電子顕微鏡法(TEM・STEM)および3 次元アトムプローブ法(3DAP)を用いて微細組織を調査した。TEM・STEM 観察より、キンク界面はサブミクロンスケールに分割されたセグメント状の形態を取っており、回転角度に対応する底面刃状転位列により構成されていることが示された。また、STEMおよび3DAP観察より、界面に配列した刃状転位部では局所的な積層変化に対応したナノスケール領域での溶質濃度低下が確認され、キンク界面の高い熱的安定性を担保すると考えられた。観察されたキンク組織の特徴的な構造は、キンク導入によりもたらされる回位の弾性エネルギー低減化を駆動力として形成されたと理解出来る。

MAX相セラミックスは特徴的な層状結晶構造のために、塑性変形において非常に強い異方性を示すことが明らかにされている。しかし、最も基本的な力学特性である弾性特性においては、その影響は十分に明らかにされていない。本研究では、Ti3SiC2MAX相に着目し、Ti3SiC2単結晶の弾性特性をinverse Voigt-Reuss-Hill(iVRH)近似を用いて実験的に明らかにした。その結果、Ti3SiC2MAX相は異方的な結晶構造を有するにもかかわらず、ヤング率およびせん断弾性率はほぼ等方的な挙動を示すことが明らかとなった。また、第一原理計算を用いた解析の結果、Ti3SiC2MAX相は、層状の結晶構造を反映した層間の弾性不均質性を示し、その等方的な弾性特性は層間の弾性不均質性によってもたらされていることが明らかとなった。

微分幾何学に基づく連続分布転位論と数値解析(アイソジオメトリック解析)を組み合わせることで、らせん転位芯近傍における応力場の解析に成功した。この理論では、らせん転位の塑性変形をWeitzenbock多様体を用いて表現し、これをEuclid 空間へ埋め込むことで力学状態を決定している。解析の結果、らせん転位芯においても応力は発散せず、転位芯遠方では従来の Volterra 転位論との定量的な一致が確認された。この理論では、塑性変形状態の決定に数値解析を用いていることから、任意の転位配置および転位種類に対する力学場の解析が可能である。ミルフィーユ構造中のキンク変形およびキンク強化機構を転位論の立場から理解するためには、複雑な転位配置に対する非線形力学解析が必須である。本研究で構築した新しい転位論は、これらの議論に不可欠な理論的枠組みを提供するものと考えられる。

Mg2Siは熱電変換能を持つ金属間化合物として知られており、多孔質化により熱伝導率を低下させることで熱電変換効率の向上が期待されている。通常 Mg2Siは溶解法や粉末冶金法等により合成されるが、通常 1000℃を超えるプロセス温度が必要であったり、形状の制御が困難である等の課題があった。今回我々は有機高分子多孔質膜の表面をゾルゲル法とUV-O3処理によりシリカ被膜で覆い、その後 600~900℃でMg蒸気により還元することで、Mg2Siとカーボンからなる多孔体の形成に成功した。得られたMg2Si多孔体は水に浮くほど軽く、高い電気伝導率と低い熱伝導率の両立に成功した。本手法はMg2Siとカーボンからなるミルフィーユ構造の形成手法としても期待できる。

本研究では、ポリロタキサン(PR)で修飾された新規の強靭で透明なポリメタクリル酸メチル(PMMA)ブレンドをいくつか作製し、これらの物理的特性とモルフォロジーを評価した。ここでは、マトリックス樹脂とPRとの界面接着性を高めるために、PMMAと混和性のあるスチレン/メチルメタクリレート/無水マレイン酸(SMM)共重合体を反応性相容化剤として使用した。二軸溶融混練押出機を用いてポリマーブレンドを調製し、構造解析と物性評価を行った。相容化剤SMMの添加により、PMMA/PRは部分的に混ざり合い、PRドメインはナノ分散された。PMMA/SMM/PRブレンドの表面硬度は、PMMAのそれよりも15%だけ低下したが、破断伸度は 2.5倍に増加した。ノッチ付きシャルピー衝撃試験では、PMMA/SMM/PRブレンドの衝撃強度は PMMAよりも 60%向上し、剛性と延性のバランスが優れていることが示唆された。PRは、PMMA/SMM/PRブレンドの塑性変形の起点となり、ナノスケールで微分散したPRが起点となり、ボイドやクレーズの形成を引き起こすことが解析された。

本研究では、溝ロール圧延Mg-Y-Zn合金を対象に、キンク形態と力学特性の相関性について調査した。キンク形態の一つであるキンク屈曲角度は、溝ロール加工時の圧延回数によって制御できることが分かった。この形態因子は、キンク強化に起因した硬度特性と密接な関係を示し、屈曲角度の大角度化にともない高硬度化を呈した。他方、屈曲角度が15~20°を超えると、硬度向上(キンク強化増加分)が鈍く、熱処理材はその傾向が顕著であった。展伸加工法と加工熱処理を併用制御することで、キンク強化に寄与する影響因子を個別抽出できるバルク材の創製に成功した一例である。なお、溝ロール圧延加工によって導入したキンク三次元観察動画は、本論文のsupplementary movie fileにある。様相理解の一助になれば幸いである。

LPSO相の体積分率の異なるMg-Y-Zn鋳造材を高温圧縮試験に供することにより、LPSO相の体積分率がその変形挙動に及ぼす影響を明らかにした。LPSO相の体積分率が数%の合金(希薄合金)では流動応力の速度依存性は小さく(図1(a))、圧縮後の組織には双晶が観察された。その一方で、 LPSO相の体積分率が30%以上の合金(LPSO合金)では流動応力は速度依存性を示し(図1(b-d))、圧縮後の組織にはキンク導入が確認され、双晶はほとんど観察されなかった。以上の結果は、LPSO相の体積分率が一定値を超えると双晶形成が抑制され、変形の律速過程が双晶変形から転位すべりに変化したことを示している。本研究をはじめとする種々の体積分率のMg基LPSO合金を規格化プロットにより整理した結果、LPSO相の体積分率が高温圧縮挙動に及ぼす影響は小さいことが示唆された(図2)。

新規高強度Mg合金の開発にC14型Mg2YbやMg2Caなどの高強度ラーベス相の利用が期待されている。しかしこれらラーベス相は「極めて脆い」という問題点を有する。本研究では、LPSO相の結晶構造をマクロ組織レベルで模擬した「組織型ミルフィーユ構造」を作りこむべく、Mgとの共晶組成に着目した一方向性凝固を行うことで、軟質Mg層と硬質ラーベス層との層状組織化を行った。
この結果、LPSO相と同様、キンク帯形成が誘導され、高強度を維持しつつ、300℃以上では塑性変形が可能になった。すなわちミルフィーユ構造制御により、構成相自体がもたない新たな変形モード(キンク帯形成)を誘導し、延性を獲得できることが明らかになった。本結果は、キンク帯形成を利用した、新しい高強度材料開発の可能性を示している。

CC BY-NC-ND 4.0により論文から引用
実験と結晶塑性有限要素シミュレーションを組み合わせた研究により、長周期積層構造相の体積分率が異なる4つの押出Mg-Y-Zn合金の疲労挙動を調査した。ひずみ制御の低サイクル疲労実験により、Mg89Zn4Y7合金では限定的な繰り返し硬化、Mg99.2 Zn0.2Y0.6およびMg97 Zn1Y2合金では軟化することが明らかになった。LPSO相の体積分率の増加に伴う疲労寿命の減少が観察され、それは押出LPSO粒の限られた延性に関連していた。応力-ひずみヒステリシス曲線を用いて、双晶生成と双晶消滅を考慮した結晶塑性モデルの較正および検証を行った。粗い再結晶化されていない粒における変形双晶活性が予測され、LPSO相の体積分率の増加につれて消失する傾 向があった。LPSO相の体積分率の増加に伴う疲労限の向上は、押出中の動的再結晶活動度が高いことによって、粗い再結晶化されていないα-Mg粒子の存在が減少することに関連していた。

本研究ではLPSO相の形成過程を明らかにするため、Mg-Al-Gd三元系合金中に形成されたLPSO相の成長端近傍の原子配列構造と元素分配挙動をアトムプローブ法(APT)と走査透過電子顕微鏡法(STEM)を相補的に用いて調査した。Mg系LPSO相を特徴づける4枚の連続した(0001)原子層への溶質原子の濃化に関しては、Gd原子の濃化がAl原子の濃化よりも先行することを実験的に明らかにした。またLPSO相の(0001)面に沿った方向への成長は{1100}あるいは{1120}面を晶癖面とするレッジ機構により生じていることがわかった。これらの結果から、Mg-Al-Gd系LPSO相を特徴づける溶質原子濃化層におけるAl6Gd8原子クラスターの形成ならびにレッジ機構によるLPSO相の成長はいずれもAl原子の拡散により律速されていることが明らかとなった。

STEM像,(c,d)APTマップおよび(e)元素分布
Mg-希土類(RE)-遷移金属(TM)からなるLPSO合金ではRE8TM6からなるL12型溶質原子クラスタが形成され、その中心には格子間原子が存在することが実験と計算の両方で示されている。格子間原子は通常、空孔と出会うことで対消滅するが、LPSO構造の形成には空孔拡散を通じた原子位置交換による溶質原子の移動が必要であり、空孔が多い状況で格子間原子が安定に存在するのは特異的な性質と言える。第一原理計算により、Y8Zn6クラスタの場合に格子間原子と空孔は反発し対消滅しないこと、またクラスタ形成過程で自発的に格子間原子と空孔が対生成し、空孔が放出されることが分かった。LPSO相の形成過程ではクラスタと同数の空孔が生成され、空孔濃度は熱活性による平衡濃度より数桁高い値となるため、更なるLPSO相の形成促進や転位の上昇運動などに繋がっている可能性が考えられる。

金属の積層構造は、異なる電位を交互に印加する合金電気めっき法で成膜することができる。本研究では、さらにパルス波形を利用して構成層をナノ結晶化することで、軟質なCu層と高強度なナノ結晶Ni層からなる積層膜を成膜することに成功した。層厚さを5 nmから950 nmに変化させたCu/ナノ結晶Ni積層膜を準備し、すべり摩擦試験を実施した。下図は摩耗速度の構成層厚さに対する依存性である。軟質なCu層が厚いもしくは体積比が大きい膜では摩耗速度が速いのに対し、高強度なナノ構造Ni層を多く含む膜では優れた耐摩耗性を示した。しかし、単なるナノ構造Ni膜よりも、10 nmのCu層と190 nmのナノ結晶Ni層とを組み合わせた積層膜の摩耗速度が遅く、高強度な均一組織よりも軟質層を適切に挿入させた積層構造のほうが摩耗特性が改善されることが見出された。

液晶性高分子の両端に非晶性高分子が結合したABA型液晶ブロック共重合体のミクロ相分離形態は、相分離界面に垂直に配向した液晶の影響を受け、幅広い組成でラメラ状となる。各セグメントは界面から垂直に伸長した形態をとるけれども、長い非晶ブロック鎖はエントロピー獲得のために界面方向にも広がる。結果、非晶ブロック鎖の分子量が大きな共重合体は非晶鎖が液晶ブロック鎖のラメラを分断した「分断ラメラ構造」を形成する。本研究では、分断ラメラ構造を形成する共重合体に液晶(Bブロック)ホモポリマー添加すると、分断ラメラを長距離ラメラに修復できることを見出した。液晶ブロックラメラ厚と同程度の分子鎖長のホモポリマー添加が、長距離ラメラ構造形成に有効であること、長距離ラメラのラメラ間隔は非晶ブロック鎖の分子量増加に伴って増加することを示した。

我々は硬軟2成分からなるラメラ状ミクロ相分離構造を形成するブロック共重合体に注目してキンク形成に関する研究を行っている。室温で軟質なゴム状ラメラと硬質なガラス状ラメラが交互に積層した構造を持つトリブロック共重合体フィルムを一方向に延伸するとキンク構造を発現できるため、キンク導入による高分子材料の強化の可能性が期待されている。本研究では、このようなトリブロック共重合体フィルムを一軸延伸しながら、2次元小角X線散乱パターン(2d-SAXS)の測定と応力の計測とを同時に行い、延伸によるキンクの形成と応力の変化の対応関係を考察した。また、キンクの形成とネッキング(左図)の関係を明らかにすることを目的に、マイクロビームを用いた2d-SAXSパターンの測定を行った(右図)。その結果、ネッキング終端部の極近傍では、ラメラ構造はほとんど変形を受けておらず、その先の狭い領域でナノ構造が急激に変化しキンクが形成されていることがわかった。

長周期積層構造を有するMg85Zn6Y9合金多結晶一方向凝固材における圧縮変形中のキンクバンド形成過程を調査した。走査型電子顕微鏡(SEM)および電子後方散乱回折分析によるその場圧縮観察から、表面凹凸を伴うキンク形成前に、局所的な結晶配向回転を伴う領域の出現が見出され、これをpre-kink(プレキンク)と命名した。図は試料表面のSEM像、および白枠領域内に対応する結晶回転量マップで、変形前から変形中期までは表面凹凸に目立った変化は見られないが、結晶回転量は変形極初期から変形とともに大きくなっていることが確認できる。観測されたプレキンクは3つの境界によって区切られ、透過型電子顕微鏡観察から、プレキンク境界は通常のリッジキンク境界と同様の刃状転位列からなる亜粒界であり、その両端は母相内でターミネートしていること、さらに、完全に可逆的ではないもののプレキンク境界は弾性的に移動できることが確認された。

非線形力学系の平衡状態が,下図の様な屈曲形で分岐図表現されることは,様々な自然現象で知られている。例えば,環境変化に伴う生物個体数の急激な変化といった生物現象から,応力変化に伴う座屈現象といった物理現象まで様々である。屈曲形では,支配パラメタ(例えば応力値)などが増加から減少に転じた場合,同じパラメタ値でも系の状態が質的に異なる(座屈など)ヒステレシス現象が観察される。この時,系はある平衡状態から別の平衡状態へと遷移するので(A1->A2など),その遷移中は非平衡状態にある。実際の自然現象は遷移中の非平衡状態にあることが多いので,その安定性解析は重要である。下図において,平衡状態が「線」で表現されるとすれば,非平衡状態はその周りの「面」として表現される。下図の「面」の白黒パターンの違いは安定性の種類の違いを反映する。現象が異っても平衡状態の「線」は同形であることが多いが,非平衡状態の「面」のパターンは現象に応じて異なることがわかった。さらに,この違いはダグラステンソルによって解析的に示すことができることがわかった。

新規軽量高強度材料として実用化が進んでいるMg/LPSO複相合金にて高強度と延性が共存する理由として、LPSO相に形成する特異な「キンク変形帯」の寄与が注目されているが詳細は未だ不明である。本論文は一方向性凝固によりLPSO相単相材の組織制御を行うことで、LPSO相の塑性挙動の結晶方位依存性を世界に先駆けて明らかにしたものである。降伏応力のみならず、加工硬化挙動までもが極めて強い方位依存性を示し、その起源がキンク帯形成頻度の違いに由来することを明らかにした。本結果より、組織制御によりキンク帯の形成挙動、すなわち「キンク強化」を通じたLPSO相の強化挙動を制御できる可能性が示唆された。

本領域研究ではキンク強化原理が働く『ミルフィーユ構造を有するMg合金の創製』を担当しているが、開発したMg合金をユーザーの方に使って頂くために重要となる防食技術や不燃化技術といった周辺技術の開発も並行して進めている。本稿では、熊本大学MRC助教の井上晋一先生が中心となって進めているLPSO型Mg合金への不燃性付与技術開発に関する論文を紹介したい。Mg-1at% X二元系合金の大気中における発火温度と形成される高温酸化皮膜の形状を系統的に調査することで、Mg合金の融点を超える温度での高温酸化皮膜形成は下図に示す六つの挙動に分類されることを明らかにした。この分類方法を開発合金に当てはめると、LPSO型Mg-Zn-Y合金ではThermally Grown型のMgO皮膜ではなくThermal Barrier型のY2O3皮膜が形成されることで外部からの酸素供給が遮断され、高い不燃性を発現することがわかってきた。今後も開発合金の応用を意識した基礎研究を継続していきたい。

粒子径5nmの高分子ナノ粒子と酸化物無機ナノ粒子の「単粒子膜」を其々調整し、これらを基板上に交互に積層することで、シングルナノ厚みの繰り返し周期を有する、硬軟の層状組織体を生み出すに至った。高分子層を軟質層、無機ナノ粒子層を硬質層とみなした。この『ナノ・ミルフィーユ構造体』は、其々の単独成分の粒子積層構造よりも高度な秩序性を有することが示された.更に、この構造体に2.5nmのキンク状位相差を導入し、その前後で延伸変形を施すと、キンクの存在が構造維持機能を誘起することが判明した。これは高分子と、表面を有機分子鎖で修飾した無機粒子間の界面摩擦の影響であると推察された。

タービンブレード用の熱遮蔽コーティングとして利用される代表的な酸化物セラミックスである、4.5mol%イットリア安定化ジルコニア (ZrO2‒4.5 mol% Y2O3) の変形挙動を、室温における単結晶マイクロピラー圧縮試験によって評価した。本研究では、軟質モードの{001}<110>すべり (CRSS:2.4 GPa) および硬質モードの{101}<101>すべり (CRSS:4.2 GPa) による塑性変形と、ナノ双晶ドメインのスイッチングによる強弾性変形が確認された。特に,圧縮軸が<111>方向に近い方位範囲では、Schmid因子が0.5に近い最大3種類の{001}<110>軟質モードによる多重すべりが発生し、連続的な結晶方位回転を伴う「回転型キンク」が形成した。これは、LPSO型マグネシウム合金などで見られる、Schmid因子が0に近いすべり系の活動によって生じる「くさび型キンク」とは異なるキンク形成機構である。

磁場中スリップキャストと放電プラズマ焼結により配向させたMAX相セラミックスに属するTi3SiC2焼結体を用いて、ビッカース硬さ試験による配向方位依存性ならびに圧痕周辺の塑性変形挙動・亀裂進展挙動を評価した。荷重方向とc軸方向のなす角度を0°(0TSC)、45°(45TSC)および90°(90TSC)として種々の荷重によるビッカース硬さを評価した結果、いずれの荷重においても0TSC > 90TSC > 45TSCの関係を有していた。また、圧痕周辺の組織観察の結果、配向方位によって底面すべりやキンク変形の生じやすさが異なることによって、圧痕形状の非等方性に寄与することがわかった。さらに図に示すように高荷重を負荷すると0TSCと45TSCでは亀裂の進展が確認され、配向方位によって亀裂進展挙動が異なることが明らかになった。これは、キンク変形等が関与するpile-upに起因するものであると考えられる。

長周期積層(LPSO)相の体積分率が異なるMg‒Y‒Zn押出材の変形挙動をアコースティック・エミッション(AE)法により解析した。従来のAE解析では事象と物理現象の対応づけに、研究者の推測が入らざるを得なかったが、本研究では、観測データに基づくAE信号の分類を試みた。モデル材(純MgとMg85Zn6Y9一方向凝固材)において、高速度カメラと同時に取得した双晶およびキンク帯生成時のAE信号を教師データとした教師あり機械学習によりMg‒Y‒Zn押出材圧縮試験中のAE信号を双晶とキンクの2つのクラスに分類した。これら2つのAEクラスの挙動は、表面観察の結果や中性子回折法による報告に一致した。その結果、試験初期では双晶変形がキンク変形よりも早く活動を開始することが示された。また、AE信号のポアソン分布による独立性検定から、キンク帯の生成は非ポアソン過程であり過去の現象に依存して引き起こされる変形であることが示唆された。

本研究では放射光によるその場測定により、Mg-Y-Zn合金のLPSO組織制御法を設計するために必要な相転移過程の支配因子を明らかにした。LPSO構造形成過程での積層欠陥形成とクラスタリングの関係は熱処理工程設計の基礎的知見を与える。等速昇温過程では、アモルファスの結晶化により形成されたhcp過飽和固溶体中でYZnクラスターは徐々に成長し、いわゆるL12クラスターサイズ到達と同時に大量の積層欠陥が導入される。この温度(分岐温度、Bifurcation Temperature, Tbif)より低温での相転移キネティクスの温度依存性を検討するため、LPSO構造の体積率がほぼ1となる組成で等温過程における変態過程を調べた。等速昇温過程ではあたかも構造相転移温度のように観測されたTbifでのhcp結晶への積層欠陥の大量導入は60K以上低温でも、アレニウス型温度依存性を示して進み、LPSO単相組成であっても一旦形成された非周期(短範囲)積層秩序は準安定であることが示された。これらは希薄領域での非周期LPSO構造形成の熱処理経路設計に有用な情報である。

本研究では、LPSO鋳造材が除荷過程において著しい非線形挙動を示すことを実験的に確認すると共に、その発現機構を結晶塑性有限要素解析により明らかにした。図1は、実験結果と数値解析結果の比較を示しており、除荷過程における非線形挙動が数値的に再現されていることがわかる。さらに解析結果より、図2に示すように除荷過程において巨視的応力とは逆向きの応力状態を持つ領域が存在し、その局所的な逆応力が除荷過程における底面すべり系の活動を引き起こし、非線形挙動が発現することがわかった。なお本研究は、本領域A01-1班メンバー(山崎倫昭,河村能人)との共同研究により得られた領域内連携研究の成果である。

本研究では、α-Mg相とLPSO相を内包する二相Mg-Y-Zn合金を対象に、低温・高温(100℃と475℃)溝ロール圧延材の内部微細組織と室温力学特性について調査した。圧延温度に関係なく、パス数を制御することで、内部欠陥が少なくキンク導入されたバルク材の創製に成功した。微細組織と力学特性は、展伸加工温度に影響を受け、圧延温度の低温化にともないα-Mg相内に変形双晶が高密度に発生し、強度および硬度が向上することを確認した。また、100℃溝ロール圧延材に関する三次元微細組織観察より、変形双晶の存在に起因し、キンク界面が、塑性変形によって生じるき裂の進展、伝播経路になりにくいことを明確にした。

金属系ミルフィーユ構造における溶質クラスターの核生成キネティクスの温度依存性を明らかにすることを目標として、一般的な置換型合金中のナノ析出物形成の時間発展を記述することができる速度論的解析の枠組みを構築した。今回は第一原理計算に基づいてAl-Cu合金の初期時効過程において重要な役割を果たす単原子層Cuクラスター(GPゾーン)の核生成と成長過程を解析した。GPゾーン形成の時間発展と臨界核サイズを動的モンテカルロ計算により評価したところ、ゾーン成長のための最適温度(ノーズ温度)が400 K付近に存在することがわかった(図(a))。また、古典核生成理論モデルによる解析の結果、GPゾーンの臨界核サイズは250~450 Kの範囲では5~16原子と見積もられる一方、温度の上昇とともに急峻に増加することが明らかになった。さらに、GPゾーン形成の臨界温度の溶質濃度依存性(溶解度線)を予測したところ、実験結果と首尾よく一致することを確認した(図(b))。これらにより、構築したモデルの妥当性を評価するとともに、温度と濃度に依存するGPゾーンの核生成と成長過程の原子描像を明らかにした。

針状ナノ粒子と結晶性フッ素ポリマーとのナノ複合体を調整し、更に一軸延伸配向を施すことで、ミルフィーユ状の粒子層状配列を高分子マトリックス中に形成させ、その力学物性増強挙動を評価した。得られたナノ複合体は5倍延伸でミルフィーユ状となり、更に7倍延伸以上では、そのラメラ配列がキンク状のヘリングボーン状に転移した。応力-歪み曲線から算出されたヤング率はほぼ4倍に増加し、同時に結晶化度と結晶化温度の向上も確認された。

連続分布転位論と数値計算を組み合わせることによって、連続体力学の立場からキンク構造の形態と内部応力場の解析を行った。キンク構造のモデリングにはHess-Barrettモデルを用いた。具体的には、Peierls-Nabarroモデルを用いて表された正負の刃状転位対を同一すべり面上に対向配置し、異なるすべり面上の転位芯を所定の位置に配列させ、これを数値計算の初期構造とした。この二次元転位配列に対してアイソジオメトリック解析を行い、キンクによる変位場と内部応力場を検証した。その結果、本モデルがOrtho型およびRidge型のキンク形態を定性的に再現していることが明らかとなった。また、得られた内部応力場を比較すると、その多くは転位芯近傍に集中するものの、一部のRidge型キンクではキンクバンド内部でのブロードな応力分布が確認され、キンクの形態によって内部応力場に質的な違いが生じることが明らかとなった。これらの結果は、キンク変形・強化機構の解明には運動学的に解釈されるキンク形態だけでなく、その内部に形成される力学場の理解が必要であることを示唆している。

本研究では、316Lステンレス鋼粒子と有機バインダーで構成されたフィラメントを使用して、金属溶融積層技術(FDMet)によって金属試験片を作製した。本プロセスは、低コストの積層造形プロセスとしての可能性があり、本研究の目的は、金属部品の機械的特性と収縮特性に及ぼす加工条件の影響を調査することである。試験片は3種の異なる層方向に印刷した。層方向が引張方向と直交するように印刷した試験片では、453 MPaの極限強さと48 %の破断ひずみが得られた。一方、引張方向に平行な層方向に印刷した試験片では、機械的特性が劣っていた。このような特性の異方性の原因をSEM観察により体系的に検討した。その結果、フィラメント中に偏析したバインダードメインが存在することが明らかになった。バインダードメインは積層と直交する方向に配向しており、焼結後も配向したボイドとして残存することが示唆された。このボイドは応力集中の原因となる欠陥として作用し、機械的特性を低下させることが明らかになった。

本研究では、短波長および長波長のUV LED(310、340、および365 nm)が実装されたハイブリッド紫外線発光ダイオード(UV LED)を開発し、ジウレタンジメタクリレートと2種類の光開始剤(1 -ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、およびジフェニル(2,4,6-トリメチルベゾイル)ホスフィンオキシド)の混合物のUV硬化性について高圧水銀ランプと比較した。ハイブリッドUV LEDのUV硬化性能は、空気下でUV硬化フィルムの未硬化層の厚さを比較することで評価した。その結果、UV LEDの組み合わせの中で、 365 nmと310 nmのUV LEDを点灯したときの組み合わせが最も薄い未硬化を示し硬化性能が高いことが明らかになった。この結果は、高圧水銀ランプで得られた結果に匹敵したが、わずかに高圧水銀ランプで達成された未硬化層の厚さは、UV LEDの組み合わせのどれよりも小さかった。この理由は、高圧水銀灯の405 nmの輝線がモノマーを光重合するように機能し、UV硬化プロセスに不可欠であることを示している。

ドーパミンは空気中の酸素により自動的に自己酸化重合し、ポリドーパミン(PDA)を与える。気液界面において自己酸化重合を行うことにより、数十~数百nmの薄膜が形成されること、ドーパミン溶液の液滴を用いてPDAを合成すると、液滴の表面が平坦化する現象が観察された。この結果からPDAは力学的に硬く、座屈による形状変化が液体の表面張力を上回ることを示している。さらに平坦化した表面に層状のリンクル構造が表面に形成されることを見出した。また、本薄膜を窒素雰囲気下で焼成することにより、導電性と触媒能を持つ炭素膜を形成した。

非晶性高分子のポリカーボネートを高圧の二酸化炭素下で延伸すると、延伸方向に対して垂直方向に細長く、規則的に配列した層状の空孔構造が形成されることが見出された。高圧二酸化炭素下での延伸中のin-situ観察の結果などから、空孔は降伏点付近からクレイズ形成に伴い形成され、形成された空孔周辺から新たな空孔が連続的に形成され、形成された空孔は線状に成長することが明らかになった。空孔周辺では応力集中により高配向することで、偏光顕微鏡下で複屈折による干渉色が観察される。高温の大気圧下では楕円状や球状の空孔が形成されるが、高圧二酸化炭素下では延伸倍率を高くしても静水圧効果により空孔は延伸方向に広がらず、空孔の形状は層状のまま変化しないことがわかった。

二相系のポリカーボネート(PC)/ポリメタクリル酸メチル(PMMA)ブレンドを高温で同時二軸延伸して得られた相構造を光学・偏光顕微鏡および透過型電子顕微鏡により観察した。
70/30 PC/PMMAの組成において、球状のPMMAドメインが均一に放射状に配向されるのではなく、二方向に一軸配向した構造が形成され、延伸に伴い粗大化が生じて配向されたPMMAドメイン同士が凝集して連結することで、延伸前に島相であったPMMA相が海相へと変化する相反転を生じることが見出された。
二軸延伸により相反転が生じることで試料表面の鉛筆硬度が2Bから2Hへと変化して、表面硬度が硬くなることが分かった。

本論文では、ミルフィーユ構造におけるキンク強化現象を、材料種を超えた普遍的原理として確立することを念頭に、物体が破壊することなくキンク変形するために満たすべき幾何学的条件と、その帰結として出現する位相欠陥や変形組織の幾何学を明らかにした。
キンク変形に対して、変形の連続条件(Rank-1接続)を要請し、これに随伴する剛体回転やキンク界面方位を、キンク内部での剪断変形量の関数として、解析的に定式化した。
得られた関係式は、キンクバンドに関する文献データ(実験)を極めて良く説明し、任意の相異なるキンクバンド同士が結合すると必然的に回位が発生するが、これを対消滅できることが示された(図は一例のCrossing kink)。これらより、外力によって組織の秩序が乱されると、対消滅していた回位が復活して歪みエネルギーが増加することが、キンク強化の一因である、という仮説が得られた。

近年、航空機等への適応を目指した新たな軽量高強度Mg材料の強化相として注目される長周期積層(Long-period stacking ordered: LPSO)相の変形機構として、主にMg母相と共通する(0001)〈1120〉底面すべりの活動が見出されている。
しかし一方で、底面に平行方向より応力負荷された際には、図に示す特異な変形帯が形成されることで変形が進行することを我々は世界で初めて見出し、その形成機構が単一すべり転位の再配列に由来する、「キンク変形」であることを明らかにした。
さらにこの知見を基に、亜鉛、白雲母、黒雲母といった、結晶構造に由来し活動すべり系が限定される他の異方的結晶構造を有する材料に着目し変形挙動を解析することで、同様のキンク変形帯が形成されることを明らかにした。このことはまさに、本新学術研究で提案する「ミルフィーユ構造」制御による変形方向の制御がキンク形成の誘導に有効であることを示唆する結果といえる。
この仮説の妥当性、拡張性を検証すべく、現在さらに組織形態を層状に制御した「複相合金」の変形挙動解析にも取り組んでおり、シンクロ型LPSO構造に代表される、結晶構造の異方性とキンク変形発現との相関、その支配因子、力学特性との相関が解明されつつある。

近年注目を集める高強度LPSO型Mg合金は、LPSO構造を形成しただけでは強化されない。
LPSO構造相を含むMg合金に高温加工を施し、合金中に高密度のキンク領域を導入することによって初めて高強度が発現する。 LPSO型Mg合金系で添加元素量を抑えた希薄系では、添加元素が濃化した「硬質層」(LPSO構造の構成ブロック)がhcp-Mgマトリクス中にまばらに、かつ無秩序に配列する層状構造が形成される。
この硬質層/軟質層からなる層状構造を「ミルフィーユ構造」とする上位概念でとらえ、キンク強化が発現するミルフィーユ構造の臨界条件等を追求することで、材料設計の新しい指針が打ち出せる。
我々は、多様なミルフィーユ構造を有するMg合金におけるキンク形成メカニズムを明らかにするため、TEM/STEMを用いてキンク周辺領域に含まれる欠陥の局所構造解析を行った。
上記欠陥はhcp構造における転位と同様の構造を有していると共に顕著な元素濃化が確認された。観察結果より、キンク形成では添加元素の拡散を伴う緩和現象が発生しており、キンク組織の安定化に寄与していると考えられた。
